楽器エピソード2<カルマン作 フレミッシュの話>

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G. カルマン(1996年)作 フレミッシュニ段鍵盤チェンバロ
ルッカースモデル(1624年)プティラヴァルマン
右の写真はふたのぺイント。演奏会ではふたを開けるので、見ることができないものです…

コルマール・ルッカース Colmar Ruckers とも呼ばれるこの楽器のオリジナルは、フランス・アルザスのコルマールにある<ウンターリンデン博物館>に所蔵されています。Web検索で コルマール・ルッカース と入れると、説明や博物館のオリジナルの写真等、ご覧になれます。汎用性が高いため、最近はこれを元にしたフレミッシュ2段鍵盤チェンバロが作られる機会が多くなってきているようです。

実は、かつて、この楽器が2Fに置かれていた時には、部屋が絨毯敷きのせいか少し性格が弱い印象がありましたが、床が板で天井が高く響きのよい1Fに置いた途端、まるで別の楽器のように生き生きと鳴り出しました。「水を得た魚」というのはこういうことなのでしょう。もとから反応が良く表現に応える楽器でしたが、ヨーロッパの建物と同じような響く空間でこそ、その良さが何倍にも開花したのですね。鍵盤のスムーズさや装飾的な本体のペイントも人気のチェンバロです。

製作者のオランダ人へールト・カルマン Geert Karman は、デルフトの工科大学を出て企業の技術者として働きながら、チェンバロ製作を少しずつ始めていった人。電動工具はほとんど使わず、板を張り合わせる接着剤も合成のものではなく膠(にかわ)を使う、というのが彼の製作方針のひとつです。1Fの楽器は彼のコルマール・ルッカース・モデルの第1号で、本体のバロックなペイントは夫人によるものです。
早逝されたチェンバロ奏者芝崎久美子さんはオランダに留学(レオンハルトに師事)、カルマン氏とは親しく、2008年11月にSpace1Fでのリサイタルをお願いした際、チラシに「カルマンさんと出会ったのは今から15年以上前…アムステルダムで楽器を作り始めて数年という、当時は若い世代の製作家だった…初めて弾いたとき、直感で「好きなタイプ」と思った…」(…は略)と言葉を寄せ、この楽器が弾ける事をとても喜び、愉しんでおられました。
そのちょうど1年後、カルマン氏から突然「芝崎さんから、コンサートでこのチェンバロを弾き、とてもよい状態でよく面倒を見ている、と聞き、とても幸せです。」とメイルが届いたのです。何と嬉しい!
カルマン氏はこの頃、夫人を難病で亡くした精神的な落ち込み(といわれている)から立ち直り、ポルトガルに工房を移し、工房のサイト立ち上げの準備にかかっているところでした。サイト用にこの楽器を載せたいので、写真があれば使わせてほしいとの要望もありました。早速、いろいろ写真を撮って送信。カルマン工房’Piparte’のサイトは、最初数か月で出来上がる予定でしたが、多分1年以上かかったと思います。www.piparte.com/
完成したサイトのHarpsichordsのページを見て・・・上から8つ目にありました!しかもなんと、この楽器がで録音されたレオンハルトの演奏が聴けるようになっているのです。曲はM.ヴェックマンのトッカータ。音源は「ヴェックマン/フローベルガー」(SRCR-2150)でしょう。
数年後、日本の古楽情報誌「アントレ」www.em-entree.jp/ の2012年7&8月号(No.240)で、チェンバロ奏者風間芳之氏によるカルマン氏のインタヴューが掲載されました。日本ではそれほど知られていない製作者なので、びっくり。レオンハルトやインマゼールとのことや、上記録音の事、さらにこの楽器についての話題も2か所に出てきます。それによるとレオンハルトは、録音だけでなく演奏会でもこのチェンバロを使ったようです。

冒頭の写真では表側をご覧いただきましたが、内側には、オランダ17世紀の風景画でよく取り上げられ、フレミッシュのチェンバロにもしばしば描かれた画題である「サンタンジェロ城(ローマのCastel Sant.Angelo)の襲撃」が、ふたの形に合わせ、左右逆にして描かれています。これは実物でご覧いただいたほうがわかる…と思います。できれば是非、Space1Fでのコンサートで!

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