楽器エピソード1<スコヴロネック作 ドゥルケンの話>

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スコヴロネック(1963年)作
フレミッシュニ段鍵盤チェンバロ
ドゥルケンモデル(1745年)

 

この楽器はワシントンのスミソニアン博物館所蔵のドゥルケン1745年作(アントワープ)のオリジナルチェンバロに基づき、歴史的な楽器製作が起こった最初期といえる時期に作られた一台。製作者はドイツの マルティン・スコヴロネック Martin Skowroneck(1926年~2014年5月)、1950年代からベルリンの楽器博物館の所蔵楽器を調べ設計原理を研究、歴史的な構造のチェンバロ製作を行なったパイオニア(先駆者)です。オランダのチェンバロ奏者 G.レオンハルト Gustav Leonhardt(1928年~2012年1月)の為にスコヴロネックが1962年に完成したドゥルケンは愛器となり、数々のLPの録音にも使われ、深く美しい音色で名器として知られました。
この名器を生んだスコヴロネックは、90年代70歳を迎えても製作を続けていましたが、これまで受けた注文をこなすだけで精一杯、新たな注文は不可能で、既に所有しているチェンバロ奏者は誰も手放したがらない、というほどの名匠として知られています。

現在Space1Fにある楽器は1963年完成で、レオンハルトの楽器と同時に製作し始めた同モデル3台のうちの1台とのこと。これを注文・所有していたのは、レオンハルトの高弟であるチェンバロ奏者のアラン・カーティスでした。
当会創設者の 故 鍋島元子(1999年没、享年63)が、兄弟子であり親交のあったヴェネツィア在住のA.カーティスから「私のドゥルケンを買いますか」という連絡を受取ったのは、1995年のこと。彼はこのチェンバロをアメリカ帰国の際の活動用にバークレーの音楽学者に預けてあり、本拠地をヨーロッパに移すにあたり手放すことを考えたのです。鍋島とのやり取りには「古いけれども、きっと貴女(鍋島)が大切にし、生かしてくれる」との信頼があったといいます。また、預かり主の音楽学者からの送り状には「人々に愉しみを供し、やがて真のアンティークとなるでしょう」と書かれていたそうです。
鍋島のCD『深層の陰と陽』のライナーノートには、このほかにもこの楽器を購入するまでの詳しい経緯が書かれていますので、是非お読みいただければと思います。

この楽器は国内外チェンバロ奏者の演奏会やレコーディングにも使われています。いくつかご紹介しましょう。
レオンハルトによるJ.S.バッハ/3台のチェンバロの為の協奏曲の録音で使われています。同じLPに収録されたレオンハルトの演奏の中にも、この楽器での演奏があるとのこと。
また、レオンハルトはアメリカでの録音や演奏会でこの楽器を用いたこともあり、来日時に鍋島宅を訪問した際、懐かしく弾いたそうです。
最も新しい録音は、チェンバロ奏者 渡辺順生氏のCDで、2011年10月に録音されました(ALCD-1132/ALM)。そのライナーノートにも、この楽器について詳しい言及があります。

鍋島はこの楽器を入手してわずか数年後に亡くなり、当研究会で引継ぎましたが、古楽復興の歴史とも言えるこの銘器=スコヴロネック作のドゥルケンを、レッスンや催しで使うばかりではなく、チェンバロ奏者の方々に広く使っていただけるよう、その音色をたくさんのお客様に愉しんでいただけるように、と考え、Space1Fに置いて活かすことにしました。

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